競馬とほぼ無縁な家庭に生まれ育った私が、なぜ競馬にこれほどはまり込んだかについて、いささかミーハーな理由ではあるが、恥を忍んで書いてみたい。
1983年、当時10代だった私は近所の郵便局へ手紙を出すために切手を買いに行った。
当時封書の基本料金は60円だったので、窓口では当然のごとく通常の60円切手(釣鐘のデザインだった)を出してくるものと思っていた。
しかし窓口で渡されたのは記念切手だった。
まじまじと眺めてみると、馬が描かれていて、その下に「第50回日本ダービー記念」とあった。
競馬について無知とはいえ、ダービーが競馬の名誉あるレースであることは知っていたから、それが今年でちょうど50回なのか、ならばどんな馬が勝つのだろう、それで日曜日にテレビで親の目を盗んで競馬中継を見てみることにした。
当時のフジテレビ系競馬中継の司会者は広川太一郎氏で、アシスタントがまだ駆け出しの頃の鈴木淑子さんだった。
解説者はもちろん大川慶次郎氏。
しかしまだこの「おじさん」が、競馬界において大変大きな存在であるということは知る由もない。
1番人気は、ミスターシービーという馬らしい。
パドックが映し出されると、鞍の上に「ミスターシービー」という看板を載せた黒い馬が悠々と歩いてくる。
思わず見惚れた。
その後に残っている記憶は、すでにダービーのスタートが切られたときである。
あの「黒い馬」は、一番後ろにつけて走っている。
大丈夫なのか、こんなところから届くのか、とひやひやしながら見ていた。
しかし4コーナーから、「黒い馬」はぐんぐんと脚を伸ばしてくる。
他の馬などお構いなしに突っ込んでくる。
実況アナウンサーが必死に「ミスターシービー!ミスターシービー!」と叫ぶ。
「黒い馬」は、追いすがる馬を振り切って、一番最初にゴールインした。
「ミスターシービーから、ミスターサラブレッドへ」。
ゴール後にアナウンサーがそう言ったのを、はっきり覚えている。
競馬って、こんなにスリリングで、楽しいものなのか。
私はいっぺんで競馬の虜になった。
全てはシービーから始まった。
そして、三冠を達成したシービーが、カツラギエースやシンボリルドルフの後塵を拝するのを見て、競馬のむずかしさ、儚さをも知ることとなる。
因みに件の切手だが、1枚だけ今でも手許にある。
描かれている馬は、前年のダービー馬バンブーアトラスだということである。
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