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らすかるすずか
  北海道
音速の貴公子・サイレンススズカと宝塚記念
2015/06/23 17:54

この馬を、「悲劇の名馬」と評する人は多い。
連勝に次ぐ連勝を遂げながら、圧倒的1番人気の天皇賞(秋)で故障発生、帰らぬ馬となったからだが、私はその悲劇を語り継ぐよりも、彼の愉快だったころの思い出を大切にしたい。
笑ってしまうほどに強かった彼の姿を語り継ぎたい。
1998年の宝塚記念勝ち馬、サイレンススズカのことである。

父はサンデーサイレンス、母はアメリカの短距離路線で活躍したワキア。
永井オーナーと、橋田満調教師が、現役時代に見初めて日本に連れてきたのがワキアであった。

1993年、ワキアはバイアモンと交配された。
だが不受胎に終わり、牧場では当時の最高級種牡馬トニービンを付けるために社台スタリオンステーションに彼女を連れて行った。
ところがトニービンの種付けを待つ牝馬は多く、彼女が発情している間に種付けできない恐れがあった。
そこで急遽、当時売出し中の新鋭種牡馬サンデーサイレンスを付けることにした。
その結果生まれてきたのがサイレンススズカである。

1997年2月にデビューし、新馬戦を勝つと、陣営は格上挑戦で弥生賞に出走させる。
ところが、ゲートに入った彼は前扉をくぐって抜け出してしまい、外枠発走に回された。
鞍上の上村洋行騎手は、体に怪我を負いながらも、「ここで乗り替わったら次に乗れる保証はない」と痛む体にムチ打って騎乗したという。

ゲートが開くと彼は大きく出遅れ、8着に敗れる。
これで牡馬の第一冠、皐月賞には出られないことになった。

条件戦、プリンシパルSを勝ってダービーに出走した彼だったが、戦前から逃げ宣言をしていたサニーブライアンの後ろに控えたためか、9着と苦杯を喫することになる。

その後も騎手との折り合いを欠くなどその天賦の才を発揮できないまま、年は暮れようとしていた。
年末、香港に遠征した彼の鞍上には、武豊騎手の姿があった。
ここは5着に終わったものの、武騎手はこの馬に果てしない可能性を感じ取っていた。
陣営も、彼の本領は気持ちよく逃げてこそ、ということに気づいていた。

そして1998年、サイレンススズカの快進撃が始まる。

2月のバレンタインSを皮切りに、中山記念、小倉大賞典、金鯱賞と連勝。
特に金鯱賞では、マチカネフクキタルら錚々たるメンバーを相手に大逃げを打ち、大差を保ったままレコード勝ち。
あまりの強さに、観客はゴール前から拍手を送り、中には笑い出してしまう者もいた。

大逃げしてこそのサイレンススズカ。
元来が臆病な馬という動物は、逃げることが本来の姿なのかもしれない。
それを分かりやすく示したのがサイレンススズカであり、なおかつスローペースが蔓延するようになった日本の競馬の中で、ハイペースで逃げ切ってしまうその姿は、まぎれもなく現状に対するアンチテーゼであった。

こうしてG1宝塚記念に出走し、1番人気に推される。
ここには前年の年度代表馬エアグルーヴを始め、メジロブライト、メジロドーベル、シルクジャスティス、ステイゴールドなどが顔を揃えていた。
武騎手はエアグルーヴの先約があったため、南井克巳騎手に乗り替わった。
追える騎手として知られていた南井騎手とサイレンススズカというコンビは、合わないのではという声もあったが、彼らは13番枠からポンと飛び出すと、そのまま快調にハナに立ち、後続を引き離す。
金鯱賞ほどの大逃げにならなかったのは、相手が強化されたからか、南井騎手ならではの乗り方なのか。

直線に入っても脚色は衰えない。
そこへステイゴールドが、エアグルーヴが脚を伸ばすが、届きそうで届かない。
結局サイレンススズカはステイゴールドに3/4馬身差をつけて逃げ切った。

秋の緒戦は毎日王冠。
4歳(当時)の強力外国産馬エルコンドルパサーやグラスワンダーとの対決になったが、ここも快勝。
満員の観衆の支持に応えた。
これでこの年は6連勝。
満を持して天皇賞(秋)に出走した。

11月1日、1枠1番、1番人気。
ならば着順は1着だろう。
いつものように好スタートを切って、快調に飛ばす。
だが、3コーナーを過ぎたところで失速…。

せめてもの救いは、武騎手を落とさなかったことと他馬を巻き込まなかったことだろうか。
ともかく、こうして彼の馬生は幕を閉じた。

サイレンススズカの産まれた1994年5月1日は、F1ドライバー、アイルトン・セナが事故死した日である。
故に彼は、その豊かなスピードも相まって「音速の貴公子」と呼ばれる。
セナと同じように事故で命を失ったのはあまりに残念なことであったが、ただ悲しむだけでは彼の本質には迫れないと思うのである。

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