エリモシックを「襟裳の病」だと思っていた。フサイチコンコルド、タイキシャトル、グラスワンダー、競馬の美しさは間違いなく中央にあったけれど、本当の意味で競馬を知ったのは大井競馬場。不思議な事に、一頭たりとも馬の名前を覚えていないが、満天の星空の下でひとつひとつの星の名にどれほどの意味があるだろう。当時、平和島駅から手配師の気分次第の現場に運ばれるさなか、人工臓器に流れる血液のように、凝固していく労働者達の中で逆流を夢見ていた。東京湾にけぶる雨が麻酔さながら現場に浸透する日々。「血統、馬体、ラップ、調教」医師の指示に従う助手みたいに、馬柱にメスを入れていく仲間達の横で予想を覚えた。「騎手、馬場、ローテ、枠」そして、「オッズ、控除率」程なく年間の回収率が100%を超え続ける人間なんて殆どいないと気がつく。その日から逆流した。挟まれたメモ、事務所の電話、現場を廻る手配車、全ての繋がりが見えた時の感情の水位とは無縁に、京浜運河はいつも静かに流れていた。危険な人気馬を見極める訓練を課された自分を打ちのめしてくれた、数々の中央のスターホース達。終焉を予感しながら数人の仲間と小さな人工島でその古典的な仕組みを回した経験が、いつもビジネス思想の根底にある。暗闇の中で意思決定を求められる時は、今も、星の光を頼りに競馬場に向かう。水は低きに流れ、照射された陰影が北国の岬のように伸びていく。
友だち(1)
速報!サッカーEG メニュー
マイページ メニュー